2021年2月発売【オムニバス】。誉田哲也氏というだけで俺の中では買いなのだが、ストロベリーナイトでお馴染みの姫川玲子シリーズ。これはもう買うしかないでしょ、という事でさっそく購入した。時間をかけてじっくり読みたかったが面白すぎてあっという間に読了。相変わらず、軽妙な筆致にスピード感のある文体の上、今回は短編集なのでさらにスピード感が増している。
やっぱり姫川玲子シリーズの世界観は最高だ。登場人物それぞれの目線から語られる姫川玲子がクールで美しく、改めて惚れ直したような感覚だった。そして、改めて思う。女優・竹内結子さんの演じる姫川玲子がもう一度見たかったと。
2010年、フジテレビ系で竹内結子さん主演でドラマ『ストロベリーナイト』が始まったが、1話目を見た瞬間から適役すぎると震えた。ハマリ役すぎ。ほぼ同じ内容で2019年フジテレビ系ドラマで『ストロベリーナイト・サーガ』を二階堂ふみさん主演でやっていたが、どこか物足りなさを感じてしまった。
そんな事を思いながら本書を読み進める。事件解決に動く姫川玲子の記述を読むたびに、竹内結子さんのあの笑顔がちらつくほど小説とドラマがリンクしている。大抵映像化すると小説が好きだった場合がっかりするのだが、姫川玲子シリーズに関してはいい相乗効果をもたらしている。もう一度姫川玲子を竹内結子さんに演じてもらいたかったと深く思う。
さて、『オムニバス』に話を戻すが姫川玲子シリーズとして記念すべき10冊目となる。今回は全7編の短編小説なのだが、一編ごとに語り手が変わる。それぞれの刑事によって姫川玲子像が異なるのだがそこがまた幅を広げていて読んでいて飽きがこない。『六法全書』『正しいストーカー殺人』『赤い靴』『青い腕』『根腐れ』『それって読唇術?』の全7編。
警察小説の中でトップクラスに好きなシリーズ!全編面白いがおススメは…
個人的に良かったのは『六法全書』と『それって読唇術?』だ。
六法全書
五日市署管内管内で自殺した男の家から女性の腐乱死体が発見された。姫川班の刑事たちが捜査に当たるのだが、姫川玲子節炸裂の短編となっている。ほとんど直感とでも言えるようなレベルの発想と、その発想を突き詰める迷いのない行動力で捜査を進める姫川玲子。その歯車が噛み合う時、これ以上ないくらい気持ちのいい形で事件を解決するのが姫川玲子なのだが、過去には独断専行型の捜査で窮地に立たされる場面もあった。姫川玲子の“核”となる捜査手法で進んでいく物語は「これこれー」と言いたくなるほどの王道。姫川玲子ファンなら、「ああ、久々に姫川玲子の活躍を読めた」と感慨深いはず。
それって読唇術?
姫川玲子シリーズも10冊目だが、これまで姫川玲子の女性らしい部分。すなわち恋愛的要素の含まれた記述は何度か出てきたが、今回はそれ。ある意味ファンにはやっと進捗するのか?と期待に胸膨らます物語である。美人でスタイルもいい。モテないはずがないのだが性格がキツメ。一部の男性からは熱烈支持された女子だった姫川玲子もオムニバスでは35歳となった。いい加減幸せになってもらいたい……。にっこり笑って「余計なお世話」と言われそうだがそれぐらいファンなのだ。部下の菊田刑事との微妙な恋模様が描かれる場面は何度もあったが、姫川玲子の恋愛モノと言えば『インビジブルレイン』だろう。
恋愛小説として読んでも確実に名作!ヤクザと刑事のロミオとジュリエット
捜査対象のヤクザに恋に落ちるという禁断のラブストーリーなのだが、もうこれはとにかく色々と複雑な感情で読み進めた。それまで微妙な恋模様とはいえ憎からず思いあっているように見えた姫川と菊田の場面を思い返すと何とも言えない。が、ヤクザの牧田がこれは惚れるな、というカッコよさなのだ。
そして『ノーマンズランド』で若干いい感じに書かれていた検事の武見。今回はその続きの久々の恋愛モノ。捜査時のキリッとした様子とは打って変わって恋愛下手な姫川玲子が描かれている。ある意味芯が通じる部分も多々あるので誉田哲也氏の人物の描き方が抜群にうまいのだろうが。いずれにせよ、ほっこりした気持ちで読める短編となっている。読み終わったそばから続編が読みたい姫川玲子シリーズ。もしまだ読まれていないようだったら強くおススメしたい。
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